「アナウンサーになるためなら何でもやります」と 目をキラキラ輝かせた若者が私のもとに毎年何人も訪れます。
「では、これとこれをやってください」と言った瞬間顔が曇り、
「それ以外の方法はありますか」と聞いてくる。
彼らはわかっていない。
言われたことができない時点で失格なのです。
私の師である故・永井譲治さんは、
『向き不向きより前向きに』を信条に、
「不器用だけれど愛や心ある話し手を1人でも多く世に出し、
世の中を今より少しでも素敵にしたい」
と多くの若者をアナウンサーへと送り出しました。
その数2,000人ほど。
師の思いに私はいまひとつ付け加えています。
「前があっちだと教えてあげること」。
アナウンサー試験を受けられるチャンスは少ない。
迷わなくて済むように、
せめて「あなたの前はあっちだよ」と指さしてあげたい。
時に背中を押し、時に隣に並び、時に前から手を差し伸べる。
前に向かって歩くのはあくまでも本人です。
なぜならアナウンサーは他人任せで出来る仕事ではないから。
アナウンサーの仕事の多くが生放送です。
パッと渡された最新ニュース原稿をわずかに目を通しただけで読む、
目の前で起きる一瞬の出来事を直ちに言語化していく。
誰も頼れない。
自力で立ち向かおうとする日々の練習があってこそ、
最適な言葉が口をついて出てきてくれるのです。
ハプニングばかりの現場で、充分過ぎるほどの下調べに何度も救われました。
またその地道な姿が相手の心を動かしたこともありました。
失敗が許されず、常に矢面に立つ。
とんでもなく険しい道を歩く。
それでも、歴史的瞬間の目撃者となったり、 誰かの心に届くささやかな喜びが すべての苦労を忘れさせてくれるのです。
人生を賭けてそんな仕事がしてみたいとやる気のある若者には、
最短で最大の学びが得られる近道を示しましょう。
それが本人のためならず、世の中を素敵にするためになると私も信じるからです。
その道を歩みたい人だけお待ちしています。
2022年9月 東京アナウンススタジオ 主宰 原元美紀
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